『F1』(F1: The Movie)は、ハリウッドスターのブラッド・ピットが主演を務める話題のモータースポーツ映画です。監督は『トップガン マーヴェリック』で知られるジョセフ・コシンスキー、製作にはジェリー・ブラッカイマーやF1チャンピオンのルイス・ハミルトンも名を連ねており、トップガン級の迫力とリアリティをレース映画にもたらしています。
この記事では、映画『F1』を鑑賞した私が、ネタバレをなるべく避けつつ本作の魅力をたっぷり語っていきます!
ストーリー概要と設定
映画『F1』のストーリーは伝説のF1ドライバーのカムバック物語です。ブラッド・ピット演じる主人公のソニー・ヘイズは1990年代に「将来を嘱望された」F1界の天才ドライバーでしたが、1993年のスペイングランプリでの大事故で重傷を負い、一度F1を去った過去を持ちます。その後30年もの間レースから遠ざかり、放浪の人生を送りながらカーレースに細々と関わっていました。物語は、そんなソニーが引退後30年を経てF1に電撃復帰するところから始まります。かつてのチームメイトで今は弱小チーム「APXGP」のオーナーとなっているルーベン・セルバンテス(ハビエル・バルデム)から「チーム存続のために力を貸してほしい」と請われ、ソニーは渋々ながらも沈没寸前のチームを救うため現役復帰を決意します。
ソニーの復帰により、チームには世代間ギャップのドラマも生まれます。APXGPには若手のホープ、ジョシュア・ピアース(ダムソン・イドリス)が在籍しており、ソニーは彼のチームメイト兼メンターとしてコンビを組むことになります。古参の叩き上げドライバーであるソニーと、最新テクノロジーを駆使する新人ジョシュアのスタイルの違いが衝突し、当初2人はたびたび対立します。一方でチームの技術責任者ケイト・マケナ(ケリー・コンドン)もソニーの加入に戸惑いつつ、新旧ドライバーたちと協力してマシン開発を進めます。こうして「勝てないチーム」を背負うプレッシャーの中、ソニーとジョシュアはぎくしゃくしながらもシーズン残り9戦のグランプリに挑んでいくことになるのです。
実在のF1ドライバー&関係者の出演
本作の大きな魅力の一つは、実在のF1ドライバーや関係者が多数登場するリアリティ溢れる演出です。映画は2023年~2024年シーズンの実際のレース週末に撮影が行われ、FIA(国際自動車連盟)やF1公式の全面協力のもと、実際のサーキットやパドックでカメラを回しています。そのため、現役F1ドライバーが本人役でカメオ出演し、劇中に実名で登場します。ブラッド・ピット演じるソニーたち架空の登場人物と一緒に映るのは、例えば以下のような錚々たる顔ぶれです。
- メルセデスのルイス・ハミルトン(本作のプロデューサーも務める7回世界王者)とレッドブルのマックス・フェルスタッペン(当時2回世界王者)
- フェラーリのシャルル・ルクレールとカルロス・サインツJr.、マクラーレンのランド・ノリス
- アストンマーティンのフェルナンド・アロンソ、メルセデスのジョージ・ラッセル、レッドブルのセルジオ・ペレス、アルピーヌのエステバン・オコン&ピエール・ガスリー、ハースのケビン・マグヌッセン&ニコ・ヒュルケンベルグ 等…
この他にも、2023年当時のF1グリッドにいた全ドライバーが何らかの形で映り込んでいると言われており、背景には実在チームのピット作業シーンや、レース後の表彰式に至るまで本物のF1世界が再現されています。特にハミルトンとフェルスタッペンの二人は映画内で存在感のある描かれ方をしており、劇中レースでは「宿敵ボスドライバー」的なポジションでソニーたちの前に立ちはだかります。例えば物語中盤のイタリアGP(モンツァ)では、ジョシュアがフェルスタッペンに挑む緊迫のバトルが描かれ、クライマックスのアブダビGPでは最後の相手としてハミルトンが登場するなど、実在チャンピオンとの対決が物語を盛り上げます。
また、ドライバー以外のF1関係者のカメオ出演も見逃せません。各チームの代表(プリンシパル)たちが実名で登場し、劇中でAPXGPチームやドライバーたちに言及するシーンがあります。メルセデスのトト・ウォルフやハースのギュンター・シュタイナーはファンに人気の人物ですが、本作ではウォルフが物語終盤にジョシュアへ声をかける場面が設けられ、「将来うち(メルセデス)に来ないか?」とほのめかすセリフまであります。さらにフェラーリのフレデリック・バスールやマクラーレンのザク・ブラウンもTVインタビュー内で発言し、低迷するAPXGPに対して手厳しいコメントを飛ばすなど、実在チーム同士の駆け引きを彷彿とさせる演出となっています。他にもF1CEOのステファノ・ドメニカリ、アストンマーティンオーナーのローレンス・ストロール、ウィリアムズのジェームズ・ヴァウルズら実在幹部もカメオ出演しており、ファンにとっては「この場面に○○が映っている!」という発見の連続でしょう。
実況や解説も本物が起用されています。劇中のレースシーンでは、実際にF1中継でおなじみのスカイスポーツF1解説者、マーティン・ブランドルとデビッド・クロフト(“クロフト氏”)が声の出演を果たし、架空レースとは思えないリアルな実況で臨場感を演出しています。このキャスティングはハミルトンの提案により実現したもので、「F1らしさを出すなら俳優ではなく本物の実況陣を使うべきだ」という彼の助言が製作陣に採用されたのだといいます。そのおかげで映画内のレースシーンでも「クロフトの絶叫実況とブランドルの解説が聞こえる」という贅沢が実現しており、F1ファンなら思わずニヤリとする仕掛けになっています。
実在レース映像と「デイトナ」シーンの活用
映画『F1』は実際のグランプリ開催地で撮影されただけでなく、作中のレース展開にも実在のレースイベントが深く組み込まれています。ソニーが参戦する物語上のレースカレンダーはフィクションですが、その舞台はイギリスGP(シルバーストン)、ハンガリーGP、イタリアGP(モンツァ)、ベルギーGP(スパ)、ラスベガスGP、そして最終戦アブダビGPなど、実在のサーキットが名を連ねます。撮影は2023年と2024年の複数のレース週末に行われており、各グランプリのスタート前グリッドやピット、観客席の様子などがそのまま映画のシーンに活かされています。実際に2023年イギリスGPのグリッドでは、ブラッド・ピットとダムソン・イドリス演じるAPXGPのドライバー2人が架空の11番目のチームとして国歌斉唱の列に並び、本物のF1ドライバーたちと肩を並べるシーンが撮影され大きな話題を呼びました。このように現実のF1世界と映画のフィクションが交差する映像は、ファンにとって大きな見どころです。
さらに本作は、デイトナ24時間レース(スポーツカー耐久レース)のシーンを盛り込んでいる点でもユニークです。実はソニー・ヘイズがF1復帰の誘いを受ける直前、デイトナ24時間レースで総合優勝する描写が序盤にあります。F1映画でありながらアメリカの伝統的耐久レースを取り上げているのは珍しく、ソニーが長年培ってきたレーサーとしての腕前を示すエピソードとなっています。デイトナではソニーはチップ・ハートというチーム(オーナー役をシェイ・ウィガムが演じます)から参戦し、スポーツカーで頂点を極めたことで自信を取り戻したところに旧友ルーベンからF1復帰の電話が入る、という展開です。このシーンも実際のデイトナ・スピードウェイで撮影されたとされ、劇中ではNBCのリードアナウンサーであるリー・ディッフィーが実況音声を担当して臨場感を演出しています。F1のみならずモータースポーツ全般への愛が感じられる演出であり、異なるカテゴリのレース映像を取り入れることで物語に厚みを持たせています。
要するに、『F1』では現実のレース映像とフィクションを巧みに融合させ、「まるで本当のグランプリを観戦しているかのような没入感」を観客に与えてくれます。世界各地のサーキットを転戦しながら撮影された風景やピットの喧騒、そしてテレビ中継さながらの演出は、レースファンにとってたまらない魅力となるでしょう。
音楽&実況の印象的な演出
本作では音楽と実況の使い方も非常に印象的で、映像と相まって観客の高揚感を最大限に引き出しています。音楽を手掛けたのは映画音楽界の巨匠ハンス・ジマーで、彼はF1の持つ「人間とマシンの融合」というテーマを音で表現するため、電子音とオーケストラを融合させたハイブリッドなスコアを作り上げました。ジマー自身「オーケストラ部分が人間、エレクトロニクスがマシンだ」と語っており、最新技術の粋と人間ドラマが混在するF1の世界観を音楽で体現しようと試みています。例えばメインテーマは重厚な管弦楽のフレーズにシンセサイザーのビートを組み合わせた特徴的な旋律で、劇中を通じて様々なアレンジ(荘厳なオーケストラ版から緊張感みなぎるエレクトロ版まで)で繰り返し登場し、物語に一貫した芯を与えています。このテーマ音楽は観客の耳にも残りやすく、ソニー・ヘイズというキャラクターの孤高の雰囲気やレースのスリルを象徴するものとなっています。
ジマーのスコアはまた、レースの予測不能性を音で表現している点もユニークです。彼は「人間が演奏する音楽は次の展開が読めてしまうが、シンセサイザーなら何が起こるか分からない。それはレースも同じだ」と述べており、電子音を駆使することで先の読めないスリルを演出しています。実際、劇中のレースシーンでは心拍数を煽るようなエレクトロ・ビートが鳴り響き、エンジン音や観客の歓声と相まって手に汗握る緊迫感を生み出しています。ジマーは製作に携わったルイス・ハミルトン本人からもヒアリングを行い、F1マシンの「内部にいる感覚」を音楽に反映したといい、マシンがフルスロットルで疾走する時の優雅さとパワーをサウンドトラックに封じ込めました。
さらに、本作の音楽面でもう一つ特筆すべきは、豪華アーティストによる主題歌・挿入歌の存在です。公式サウンドトラックアルバムにはジマーのスコアだけでなく、ドン・トリヴァー&ドージャ・キャットのコラボ曲「Lose My Mind」や、BLACKPINKのROSÉによる「Messy」、エド・シーランの「Drive」など、人気アーティストの書き下ろし楽曲が多数収録されています。中でも「Lose My Mind」はジマー自身がプロデュースと作曲に関わっており、映画のテーマ音楽のフレーズを取り入れたアップテンポなヒップホップチューンとなっていて、劇中の最高潮の場面を彩るアンセムとして機能します。このような挿入歌は登場人物の心情やレースの盛り上がりとシンクロし、観客の感情移入を一層深める役割を果たしています。
そして実況音声の演出についても触れないわけにはいきません。前述の通り、レースシーンの実況には実在のブランドル&クロフト両氏が起用されており、これは映画の演出上も大きな効果を上げています。例えば劇中でソニーとジョシュアがライバルチームと接戦を繰り広げる場面では、クロフト氏の絶叫交じりの実況(「サニー・ヘイズが攻める!まだ諦めない!」といった調子)やブランドル氏の冷静な技術解説がオーバーラップし、実際のF1中継そのものの興奮が再現されています。映画の観客はまるでリアルタイムでグランプリを観戦しているような錯覚を覚え、映像と音声の相乗効果でアドレナリンが高まる仕掛けです。「本物の声」が持つ説得力のおかげで、たとえフィクションのレースであっても信憑性と熱狂が格段に増しており、音響面からもF1の魅力を余すところなく伝える演出となっています。
F1の舞台裏・人間ドラマの描写
単なるレースアクションだけでなく、映画『F1』はF1の舞台裏で繰り広げられる人間ドラマやロマンスにも焦点を当て、物語に深みを与えています。APXGPチームは成績不振にあえいでおり、オーナーのルーベンはなんとかチーム存続のために奔走しますが、内部では思惑が渦巻いています。F1チーム運営の厳しさやスポンサー・出資者のプレッシャーといった舞台裏のリアルがうかがえます。
また、技術部門でのドラマも見どころです。テクニカルディレクターのケイト(ケリー・コンドン)やチームのピットクルー、エンジニアたちも脇役ながら存在感を持っており、レース中のピットストップ失敗で順位を落として肩を落としたり、徹夜でマシン修復に励んだりする姿が細かく描かれているため、観客はチーム全体で戦うモータースポーツの醍醐味を味わえるようになっています。
物語の中心となるのはやはりソニーとジョシュアの人間ドラマです。世代を超えた友情と師弟愛の物語は、本作の心臓部と言えるでしょう。
まとめ
総じて、映画『F1』はフォーミュラ1の表と裏、両面の魅力を描き出した作品です。サーキット上のハイスピードでエキサイティングな競争だけでなく、ガレージ内の葛藤やチーム内の絆、ビジネス上の駆け引き、そして人と人との触れ合いまで包含することで、F1というスポーツの奥深さをエンターテインメントとして表現しています。ブラッド・ピット演じる伝説のドライバーが繰り広げるカムバック劇は、モータースポーツファンにはたまらないリアリティと映画ファンを唸らせるドラマ性を兼ね備えており、2025年注目の一本として期待を集めるのも頷ける内容となっています。レースシーンの迫力、音響・音楽の洗練、そして心揺さぶる人間ドラマが融合した『F1』は、まさに「最高速度の人間ドラマ」と呼ぶにふさわしい作品と言えるでしょう。
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